2006年 Tucson Show Report

2003年のツーソンショー以来、毎年各地のショーレポートを現地から発信してきましたが、今年からは帰国後にショーを振り返りながら、印象に残った出来事や目に止まった標本等について主な会場別に書き綴ることにします。

Smuggler's Inn

ここはMarty Zinnが主催するArizona Mineral & Fossil Showのうちのひとつの会場(他にはInnSuite Hotel, Clarion Hotel等)で、主に中国やロシア、インドなどの業者が出店しています。

またここには希産鉱物マニアにとっての神・Alfredo Petrovがいます。毎年彼の標本を見るのを楽しみにしているのですが、今年も期待を裏切らずドイツのコレクターから届いた興味深い古典的鉱物標本が小さなテーブルに所狭しと並んでいました。私はその中からカザフスタン産のアージェントパイライトをピックアップ。非常に稀な銀鉱物で、日光下でルーペで見ると黒い結晶がギラっと輝きます。日本では兵庫県で産出例があります。

彼は現在、日本産鉱物に関する本(英語)を出版すべく執筆中です。日本で産出する(或いは、した)ほとんどすべての鉱物種とその産地、詳細が網羅される予定で、出版の暁には日本産鉱物に興味がある欧米人にとってバイブル的存在となるでしょう。

Alfredoといえば希産鉱物や日本産鉱物だけでなくボリビア産鉱物においてもマスターなのは周知なのですが、下の写真をご覧下さい。これらはボリビアの鉱山主から送られてきた車骨鉱です。出鱈目な梱包のせいですべてお釈迦。温厚なフレッドもこれには怒り狂っていました。Photo 2に写っている、ピンク色のトイレットペーパーに包まれているものはすべてボリビアの藍鉄鉱です(Photo 1の左上がその包みの中身から出てきたもの)。この中にひとつでもまともな標本があればいいほうという状態で、ほとんどが無惨な状態です。これを見たときの脱力感は口では言い表せません。

Photo 1

Photo 2

さて、このSmuggler's Innですが、来年からショー会場では無くなります。集客率の悪さがその理由と聞きました。そのかわりに新しくQuality Innというホテルがショー会場として加わります。

2006.6.17 追加:そのQuarity Innですが、地図を見るとダウンタウンから相当距離があります。Smuggler'sでさえ結構遠かったのに...

Crarion Hotel

まず始めにブラジルのLuiz Menezesの部屋を覗きに行きました。毎年まめにNEW FINDを提供してくれるディーラーのひとりです。今年はSapo Mine産の緑色を帯びた風変わりな燐灰石、新しい産地のブラジリアナイトが新物でした。ブラジル石はほぼすべてが分離結晶でしたが、3個ほど水晶に付いている魅力的な標本がありました(下の写真の標本には結晶にダメージが見られましたのでパスしましたが、魅力的な標本でした)。

ブラジル石をともなう骸晶の煙水晶

Jenipapo Dist., Itinga, Minas Gerais, Brazil

燐灰石のほうは、青みがかった緑色ですべて母岩付でしたが、透明度はありませんでした。
さて、近年産出したブラジル産の燐灰石にはひとつ気を付けねばならない事があります。すでにネット上にそのレポートがありますが、オイル処理されたフェイクが多数出回っています。Carbonate Apatiteと称される標本にその疑いがあるとの事。通常、Carbonate Apatiteの天然物は非常に小さな結晶で美しいとは言えないものです。このフェイクの燐灰石は、見た目では判断がつきにくいもののようで、分析にかけて初めて発覚したと聞いています。どうかお気を付け下さい。

 他にはトルマリンのインクルージョンによる青水晶が少量ありました。残念ながらミニチュアサイズの標本はすべてダメージがありましたので、TNサイズのダメージのない標本を幾つかと大型の群晶標本をひとつファーストチョイスしました。

チェコのディーラー・KARPでは新しく産出したタジキスタンのスキャポライトを見ることが出来ました。サムネイルからミニチュアサイズの蝕像の単結晶でしたが、宝石質で透明な紫色の良質な結晶でした。

アメリカのディーラー・XTALの部屋はとても美しいメキシコ産アメシストの標本で覆い尽くされていました。去年新しい晶洞が見つかったそうです。

スペインのディーラー・Luis Miguel Fernandezは単褐色から透明の重晶石、輝安鉱の標本、New Findの鶏冠石を数多く展示していました。

ドイツのMarcus Grossmannは、少ないながらもクオリティーの高い標本を持ってきていました。中でも1965年度産のメキシコ産ミメット鉱とnewのエロンゴ産蛍石には目を奪われました。通常、彼が得意とするのはパキスタン系の鉱物なのですが、今年は極端に少なかったです。去年あたりからパキスタン・アフガニスタン系の鉱物は現地値段がなぜか高騰しているため、良品を納得できる価格で買い付けるのが難しくなっています。

Innsuite Hotel

ここには新宿ショーにも毎年出店しているFrancois Lietardがいます。去年は彼は、一昨年までArizona Mineral & Fossil Showの1会場であったExecutive Innと、高級志向の強いショーであるWestward Lookの両方に出ていたのですが、今年はこのホテルのみに出ていました。彼もまた(正確には彼のパートナーである女性ディーラー:Sabine Amoryが)エロンゴ産の蛍石の美しい標本を幾つか持ってきていました。その中に4点、アクアマリンをともなう長石付の標本がありました。幸運なことにこれもファーストチョイスする機会に恵まれましたが、ダメージの有無やバランスの良さ、アクアマリンの色合いなどの点から最終的に1点に絞り込んで入手しました。

彼は他にNew Findのパキスタン産燐灰石(無色透明、またはややラベンダー色を帯びており、緑閃石の含有が見られるもの)や2点のコロンビア産の青いユークレース(1 cmのサムネイル、単結晶)を持っていました。

この会場では長年の友人であるパキスタン・ディーラーからNew Findのアフガニスタン産トルマリンを入手しました。アップルグリーン色をした透明度のかなり高い結晶です。

Westward Look Show

ダウンタウンから北上すること約11キロの地点にあるこの豪華なリゾートホテルで開催されるショーでは、トップクラスの鉱物ディーラーが最高品質の標本を展示販売しています。

その中で今年私が最も目を奪われたのがPala Internationalで見たこのコロンビア産ユークレースの結晶でした。大きさは長さ3 cm、幅は1 cm以上、厚さ1cm。結晶にはファントムが見られ、トップに黄鉄鉱が付いています。価格は26,000ドル。

他に、Scott Werschky (Miner's Lubchbox)の部屋では"Porpezite"とも呼ばれているベネズエラ産の含パラジウム自然金の結晶標本が売られていました。単結晶のものから群晶や母岩付まで様々なタイプの標本がありました。

この会場は何もトップエンドの標本ばかりが売られているわけではありません。既知のディーラー達と話しているうちに思わぬ掘り出し物が出てきたりします。

フランスのAlain Martaudは今では貴重となったツメブ産の宝石質な青い珪亜鉛鉱を持っていました。また、イギリスのIan Bruceは同じくツメブ産のサムネイル標本を数多く持ってきており、これもファーストチョイスしてきました。その中には幻の赤い白鉛鉱やスコロド石が含まれています。

Ian Bruceは今年の新宿ショーにKristalleと共に出店するとのことでした。ツーソンショーに出しているようなクラスの標本を持ってくるとすれば、相当な話題になるのではないかと思われます。

なお、同時にMindat.orgのJolyon Ralph氏も来日する予定だそうです。

Alain Martaud(左) & Jordi Fabre

Ian Bruce - Crystal Classics

さて、この会場に行く楽しみのひとつに著名なコレクターとの出会いや再会があります。今年はそんなコレクターのひとりであるMarshall Sussman氏のお宅を訪問する機会が得られました。

氏が蒐集する標本はツメブ産鉱物のみです。まずは氏のコレクションの一部をご覧下さい。中にはMineralogical Record誌に掲載された有名な標本があります。

Marshall Sussman


Cerussite with Malachite inclusions


Cuprian Adamite


Red Cerussite(赤銅鉱の含有でオレンジ色に)


Blue Cerussite(青鉛鉱の含有で青色に)


Cerussite(10 cmを遙かに上回るダメージの無い博物館クラスの標本)

氏のコレクションからは「コレクションを構築するという事とはどういう事か」を学ぶことが出来ます。どういう標本をどのように買い、どのようにしてグレードアップし続け、最終的にどういうレベルの標本をどのようなかたちで後生に残していくかということです。なんびとも「物」を所有したまま死ぬことはできません。いつか必ず手放さなければならない時が来ます。

ところで私の父はアンティークなカメラや光学機器を集めるのが好きで、特に古いライカには愛着があったらしく相当数所有していましたが、没後に震災ですべてが壊れゴミと化してしまいました。もし父が家族に自分の死後の所蔵品の処分方法(誰に託すべきか)を教えてくれていたらと思うと残念でなりません。きっと震災に遭う前に、然るべき価格で、それらを所有する資格を持つコレクターの元へと渡っていたでしょう...

 

 以上、2006年ツーソンショー・レポートでした。

 2006年2月12日